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03-3408-5526妊娠初期に発見されることがある子宮頸がん
子宮頸がんはHPVウィルス感染によって生じ若い世代に多い「がん」です。性的接触によってHPV感染が生じるといわれており、初期の段階で発見されると完治できる「がん」でもあります。そのため妊娠初期の子宮頸がん検診が大切です。また妊婦検診での超音波検査で卵巣がんや子宮筋腫(腫瘤)、子宮奇形の異常も見つかることがあります。
[注] 中絶手術の術前検査の種類
そもそも子宮頸がんとは
「子宮がん」には「子宮頚がん」と「子宮体がん」があります。「子宮頸がん」はHPV感染が原因で子宮の入り口の子宮頚部にでき若い世代に多いがんです。「子宮体がん」は子宮体部にでき女性ホルモンが原因で中高年に多いがんです。
(下図参照)
子宮頸がんと子宮体がんは、発生の機序、治療法が異なるため、別個のがんとして治療されます。
妊娠初期に子宮頸がんが発見される理由
前述したように、子宮頸がんは性交等の性的接触によって感染したHPVウィルスが原因で発生します。したがって、性行為によって成立した妊娠初期に異型細胞や子宮頸がんの発見が多くなることになります。子宮頸がんの初期症状は無症状であることが多いため、妊婦検診では子宮頸がん検査を実施することになっています。子宮頚がんは進行するとおりものが増え、性交時出血が生じることが多くなります。
「前癌病変を含めた子宮頸癌の約3%が妊娠中に診断された」と言われています。
HPV(Human Papilloma Virus)とは
HPVはヒトパピローマウイルスといい、100種類以上の型があるありふれたウィルスです。尖圭コンジローマもHPV感染が原因です。HPVは性的接触によって感染しても多くは免疫により自然と排除されます。ごく一部のハイリスクHPVに持続感染したときに子宮頚部異型上皮、上皮内がん、上皮癌と進行することがあります。
妊娠中に子宮頸がんが見つかると、どうなるの?
妊娠中の子宮頚がん検診の結果でベセスダ分類を行い、異常がなければ経過観察となります。妊婦検診で子宮頸がんやその前段階の異形成が見つかった場合は、コルポスコピー(膣拡大鏡)で病変部の組織を採取して顕微鏡で精密検査を行います。 ベセスダ分類で組織系が扁平上皮系ではなく腺細胞系のばあいは、初期の段階でも治療が優先されます。妊娠を継続するか治療を優先するかの判断が必要となります。
ヒトパピローマウイルスの感染は性交時に起こることがほとんどです。多くの感染は陰性化するといわれていますが、持続感染が長引くと異形成から前がん状態に進行することがあります。
細胞診検査とコルポスコープ検査の結果から「がん」と診断されたら、MRIなどの画像診断や、内診・直腸診を行ってがんの広がりや転移がないかさらに詳しく調べ、がんの病期(ステージ分類)を確定することになります。
組織診やステージ分類で確定診断後、経過を観察しながら妊娠を継続するか、治療を優先するべきかを担当医やご家族でよく話し合って判断することになります。
前がん状態の異形成には、軽度・高度の段階があり高度異形成から通常数年以上かけて子宮頸がんに進行します。がんの進行度やがん細胞のタイプによっても判断は変わってきます。
近年の、体外受精胚移植、受精卵凍結、代理母、卵子凍結、等の生殖医療技術の進歩も、妊娠中の子宮頚がん治療の参考になります。
子宮頚がん検査による組織系とベセスダ分類
「略語の正式名称」
NILM: Negative for intraepithelial lesion or malignancy(悪性所見なし)
ASC-US:Atypical squamous ceils of undetermined significance(軽度扁平上皮内病変疑い)
LSIL:Low grade squamous intraepithelial lesion(軽度扁平上皮内病変)
ASC-H: Atypical squamous ceils cannot exclude HSIL(高度扁平上皮内病変疑い)
HSIL: High grade squamous intraepithelial lesion(高度扁平上皮内病変)
SCC: Squamous cell carcinoma(扁平上皮がん)
AGC: Atypical glandular cells (異型腺細胞、腺がん疑い)
AIS:Adenocarcinoma in situ (上皮内腺がん)
AC: Adenocarcinoma (腺癌)
妊娠中の子宮頸がんの治療法
子宮頸がんの治療方針は、がん細胞の組織系、がんの広がり(ステージ分類、進行度)、患者さんの状態を考慮して検討されます。
子宮頸がんの治療法には、外科的子宮摘出術(リンパ節郭清を含む)、薬物療法(抗がん剤を用いた化学療法)、放射線治療、がありますが、多くの症例、合併症の経験からそれらを総合した集学的治療法が施行されます。現在妊娠中の患者さんや将来の妊孕性を考慮すると、検査や治療は制限されます。
今回は、妊娠中または妊孕性を考慮した治療法に限定して記述します。
子宮頸がんのステージ分類
妊娠中または妊孕性を考慮した子宮頸がんの治療方針には、胎児発育とがん細胞の広がり(ステージ分類、進行期分類)を確定することが重要です。ステージ分類は、0期~Ⅳ期に分類されます。
[注] 子宮頸がん 治療 国立がん研究センターを参照
患者さんの状態は、健康状態、今妊娠しているか、将来の妊孕性、が問題になります。
妊娠中に子宮頸がんが見つかった際の治療法は組織系、ステージ分類、患者さんの意向が重要視されます。
受精卵凍結、卵子凍結、代理母、等の生殖医療技術の発達や法整備も、子宮頚がん治療の参考となります。
妊娠中または妊孕性を考慮した治療
当論文ではわかりやすく大まかな説明のため、精確な治療法は他の文献をご参照ください。
●子宮頸部レーザー蒸散術
軽度異形成は自然に病変が消失することが多いので、経過観察となります。
異型細胞が長期間続く場合や高度異形成では浸潤がんに進行する可能性があるため、がん化する前にレーザーによって治療をします。子宮頸部の病変部をレーザーで焼灼します。
●円錐切除術
病変した子宮頸部の一部をレーザー又はコールドナイフで円錐状に切り取る方法です。円錐切除術は、がんの病理診断検査でもあり、高度異形成に対しては治療法でもあります。切除後の病理診断の結果、子宮の温存が可能な場合は妊娠の継続が可能です。円錐切除術で切り取った組織を検査し、子宮頸がんが進行していると判明した場合は、子宮摘出となることもあります。がんの広がり状態の把握と治療を兼ねておこなわれます。
●広汎子宮頸部摘出術
円錐切除術を大きくして妊孕性を考慮した術式になります。患者さんのご希望を加えご家族の方と相談しながら行われます。
腫瘍の根治性、再発、早産の問題が残ります。
●子宮摘出
子宮内の赤ちゃんが体外生活可能な妊娠週数に至っている場合は、帝王切開により赤ちゃんを出産した上で、子宮の摘出を行います。
子宮内の胎児が体外で生活できる妊娠週数になっていない場合は、胎児を体外に出せる妊娠週数まで経過観察を行い、その後に摘出手術する場合もあります。
妊娠早期に子宮頸がんが見つかり、経過観察中にがんが進行した場合は、治療を優先し妊娠の継続を諦めなければならないこともあります。
がん病変の広がり具合によって、単純子宮摘出、広汎子宮摘出等が選択されます。
[注] 中絶手術の保険適応
[注] 子宮頸がん 治療「国立がん研究センターがん情報サービス」も参照ください
妊娠が判明したら、子宮頚がん検診を受けましょう
妊娠と子宮頸がんには成立の段階で共通点があるため、「妊娠が判明したら子宮頸がん検診を受けましょう。」
子宮頸がんがHPV感染からがん化する前の前がんの段階や浸潤癌でも早期に発見できれば、適切な経過観察や治療を早く行うことが可能で治癒率も高いです。子宮頸がんの早期発見・早期治療のためには定期的ながん検診がとても大切です。
またHPVワクチン接種で子宮頚がん発症が減少する予防効果もありますが、ハイリスクタイプのHPVには多くの型が存在するため(例えば、16,18,16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,67,68型のハイリスク型HPV)、子宮がん検診を受診することは大切です。出血などの症状がなくても2年に1回は定期的に子宮がん検診を受診することをおすすめします。
[注] 子宮頚がん 公益社団法人 日本産科婦人科学会